児童虐待児は成人したら依存症に?|依存症と児童虐待の関連・治療法
児童虐待と依存症が関連していることはご存知でしょうか?
現在日本では子どもにとってトラウマとなる児童虐待が年間55000件以上発生しています。
虐待を受けた子どもはトラウマを抱え、その苦しみを成人期以降も抱え続けるケースがあります。
また、精神疾患や薬物依存等の物質依存になるリスクがあると報告されています。
アルコール依存症の当事者も幼いころに児童虐待を受けていた、家族との関わりの中で傷ついていたのかもしれません。
児童虐待をされた子どもが成人するとアルコール依存症のリスクが高まります。
また、アルコール依存症の親は子どもを虐待するリスクがあるのです。
この記事では、アルコール依存症と児童虐待の関連についてご紹介いたします。
目次
1. 児童虐待の定義と主な要因
児童虐待とは、「子どもを不当に扱うこと」と定義されています。
そして、児童虐待には主に以下の4つがあると考えられています。
①身体的虐待
身体的虐待とは、「殴られる」、「蹴られる」、「ものを投げつけられる「やけどを負わされる」などの身体を故意に傷つける虐待を言います。
体罰やしつけは身体的虐待になるのかという問題もありますが、親側が子どもに対して「悪いことをしたからしつけのために殴った」ケースでも病院に運ばれる事態に発展し、児童虐待とみなされるケースもあります。
②精神的虐待
精神的虐待とは、子どもに対して「バカだ」、「くずだ」などと繰り返し脅すことや、差別や無視をするなど心を傷つけるような虐待を言います。
この虐待を通して子どもは不安感を抱いたり、うつ状態になるといいます。
また、両親間の暴力を目撃されるような行為、例えばDVなどを目撃することも精神的虐待の1つだといわれています。
また、両親の暴力行為を目撃した子供の認知機能にも影響を与える可能性があり、DVを目撃した子供は成人期に高校や大学の中退率が上がるといわれています。
③性的虐待
性的虐待とは、性交渉を強要される、ポルノグラフィを見せることなど性的に傷つけられるような虐待を言います。
性的虐待を受けることで、問題行動に走りやすいと報告する研究者もいます。
また性的虐待は、被害者が周りの人に打ち明げにくいこともあり、性的虐待の被害者の心のケアが遅れるケースが多数あります。
④ネグレクト
ネグレクトとは、子どもの基本的な世話をせずに放置することで子どもが、身体的、精神的な面で健康状態を損なう状態を言います。
例えば、子どもが泣いているにも関わらず無視し続けたりする精神的ネグレクトや子どもが病気でも医者に連れていかないなどです。
このように主に4つの種類の虐待があり、虐待が起こる要因は様々あるといわれています。
今回は虐待をしてしまう親側の要因、虐待を受ける子ども側の要因、社会的要因の3つに分けてご説明します。
(以下は厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」を参考にしています。)
虐待リスク(親側)
・妊娠を受容することが困難(例:望まぬ10代の妊娠)
・マタニティーブルーズ等の不安定な状況
・医療につながっていない知的・精神障害、依存症
・被虐待経験
・育児に対する不安や強いストレス
虐待リスク(子ども側)
・乳児期の子ども
・未熟児
・障害児
虐待リスク(社会的背景)
・未婚を含む単身家庭
・子連れの再婚家庭
・夫婦関係を始め人間関係に問題がある家庭
・親族や地域社会からの孤立
・失業や転職の繰り返しによる経済不安
・夫婦不和、配偶者からの暴力等がある家庭
これらのような要因が複雑に絡み合い児童虐待が起こっているケースが多いです。
児童虐待が起こる理由をひも解いていくと、子どもだけでなく親や家族も苦しんでいる可能性が高いのです。
2. 児童虐待とアルコール依存の関係
児童虐待をされた子どもは大人になっても精神的に苦しみます。
児童虐待をされた子どもが成人期にどうなるかという研究は近年多数報告されています。
例えば、被虐待児が虐待をされたときに感じた無力感、不安、悲しみ、怒りが他者に向かった場合、犯罪を起こしてしまうかもしれません。
また、自分自身に向かった時は自殺未遂や精神疾患、アルコール依存症や薬物依存症などになる可能性があるといわれています。
依存症と児童虐待について、MacMIllanらの研究によると、性的虐待や身体的虐待経験を有する女性は虐待経験のない女性に比べて不法薬物依存の割合は高いとされています。
心理学者のWechslerらの研究によれば、様々な精神疾患をもつ患者に「性的虐待や身体的虐待をされた経験があるか」調べたところ、虐待経験がある人はない人に比べアルコール乱用の症状の割合が高かったといいます。
児童虐待を受けたこととアルコール等の物質に依存することは関連し得るのです。
3. 我が子を虐待?|虐待「負の連鎖」の現実
ここからは、アルコール依存症になった人が子どもを虐待するリスクがあることをお伝えします。
アルコール依存症の親が子どもを虐待してしまう原因は脳の神経系にあると考えられています。
依存症当事者は少しアルコールを摂取しただけで興奮状態に陥ったり、自己制御ができなくなったりしてしまいます。
そのため、冷静な判断ができない場合があります。
また、ちょっとした理由でも攻撃的な態度をとってしまうことがよくあります。
そして、アルコール依存症の人はアルコールが欲しいあまり、家族内でケンカや暴力に発展する可能性もあります。
家族内で暴力行為やDVなどをみたことで子どもが「DVを目撃し、精神的に傷つく」という精神的虐待を受ける可能性もあります。
アルコール依存症になった親自身も幼少期に虐待された経験がある場合、「子どもをどう育てていいかわからず、しつけのつもりが身体的虐待」になったケースも考えられます。
虐待を受けた子は、成人すると依存症になり、自分の子を虐待、負の連鎖が続くという可能性があるのです。
4. 児童虐待の傷つきを癒すには?
児童虐待を受けて大人になった人が、アルコール依存症になるケースはたびたび報告されています。
しかし同時に、これらの人への治療法もいくつか報告されています。
①認知行動療法
認知行動療法とは、生きづらさを抱える本人が困るような症状や問題行動を改善し、原因となるような行動パターン、思考パターンを系統的に変容していく行動科学的治療法をいいます。
近年認知行動療法を受けた患者の、可視化された脳の異常が改善されると報告があり、思考パターンや行動パターンだけでなく脳の異常も緩和される可能性が期待されています。
②支持的心理療法
支持的心理療法とは、患者やクライエントの悩みや不安をよく聞き、それらに共感し支持していく心理療法のことを言います。
心理士や精神科医などの支援者は依存症当事者の言葉や悩みを聞きながら、当事者が社会で生きていきやすくなるよう、サポートしていきます。
彼らの心の支えとなり寄り添うことで、当事者の気持ちを楽にさせ、精神的に自立できるよう支援するのです。
また、心理療法を行う中で、言葉にすることが苦手な性格のクライエントには、箱庭療法などの芸術療法をするケースもあります。
③薬物療法
アルコール依存症慢性期の場合、もしくは重篤な児童虐待により、PTSD等を発症している場合は薬物療法を併用するケースもあります。
しかし、薬物療法は個人差があり、副作用の併発等もあるため、医師の指示に従って服用します。
5. まとめ
①過去に受けた児童虐待が原因でアルコール依存症になるケースがある。
②児童虐待が原因の場合、虐待による影響にも目を向けて治療を進めることが大切です。
③具体的な治療法として、「認知行動療法」「支持的心理療法」「薬物療法」があります。
アルコール依存症は精神疾患です。
当事者はアルコール依存症になる前も苦しみや傷ついた経験をお持ちの場合があります。
そして苦しみから一時的に逃れるためにアルコール依存症になったのかもしれません。
アルコール依存症になることで、当事者はより一層苦しみ、そして周囲の人も傷つき続けます。
アルコール依存症の親を持つ子どもは傷つき、生きづらさの連鎖は世代を超える場合があります。
だからこそ、依存症の親もその子供も、両方のケアをすることが大切です。
私たち、ヒューマンアルバでは依存症回復に向けた無料相談を行っています。
私たちの施設では、依存症の当事者やその家族として依存症を体感した経験を持つスタッフがアルコール依存症の方やご家族一人一人に寄り添った対応を行なっています。
どんなお悩みや意見も尊重しながら、回復に向け共に歩んでいきます。
何かありましたら、ぜひ一度ご連絡ください。
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参考:
・友田明美『いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』(2011)診断と治療社
・川松亮(2016)平成28年度研究報告書 平成二十八年度研究報告書児童虐待に関する文献研究 子どもの貧困と虐待 児童虐待に関する文献研究 子どもの貧困と虐待
・森田麻友 児童虐待を防止するために必要な支援 -親子への支援と家族の再統合-
ライター名: 木原彩