依存症と犯罪|当事者背景と「ケア」精神
・アルコール依存症になった方が飲酒運転をし事故を起こした。
・覚せい剤取り締まり法から外れるような、違法薬物の所持をして捕まった。
・ギャンブル依存症になり、お金欲しさに会社のお金の横領をしてしまった。
依存症は様々な犯罪と深く関わっています。
私たちの身近な場面でも「依存症」という社会問題が隠れています。
依存症になった方はそれまでの人生で苦しんできたために、「依存症」になるケースがあります。
依存症者のような意志が弱い人間に更生余地なし
一歩立ち止まり、依存症者は精神障害を抱えているんだという見方をしつつ、回復の仕組みをつくる必要があるように感じています。
今回は依存症と犯罪の関係性をお話します。
目次
1. 依存症と犯罪の関係|犯罪と再犯
依存症と犯罪は関係があります。
どんな犯罪と関連があるのか説明していきます。
①アルコール依存症・多量飲酒と犯罪
日本では、2008年に成人7500人を対象に自動車事故と飲酒について大規模調査を行っています。
調査の結果、アルコール依存症等のアルコール関連問題をお持ちの方は、飲酒運転の割合が高く、飲酒運転で検挙されたかどうかは、アルコール依存症等の問題の有無と関連していたそうです。
2009年に発表された調査によると50 代男性の窃盗 23%、万引きの再犯の 26%が過度の飲酒が関連していると報告されています。
また、2010年の犯罪白書によると、50代男性の窃盗の23.3%、60代の19.6%が過度の飲酒を背景としています。
②ギャンブル依存症と犯罪
2015年に保護観察対象者を類型化したデータが犯罪白書で公開されています。
そこでは犯罪を犯し、保護観察対象者となった方の中には、ギャンブル依存症を抱えている人が一定数おられました。
日本における調査でも、ギャンブル依存症者の 1 割が横領を行っていると報告されています。
③薬物依存症と犯罪
2017年度版の犯罪白書によれば、覚せい剤取締法事犯者は、日本の刑務所受刑者のおよそ3割にのぼると報告されています。
覚せい剤取締法事犯者の全てが薬物依存症でないとしても、受刑者の一定数に薬物依存症の方がいることは想像できると思います。
薬物依存症とは、薬物等の使用がコントロール出来なくなる精神疾患の1つです。
ゆえに、薬物を使用し、薬物取締法違反等で捕まったとしても、再使用をし、再度逮捕されるケースがあると言われています。
以下のデータ(2017年度の犯罪白書)によれば、覚せい剤取締法違反により検挙された人は、2006年に比べ、2016年では検挙人数がほぼ変わらないこと、再犯率が増えていることが分かります。
日本は、アメリカ等の先進国に比べ薬物犯罪への取り締まりが厳しい面もあるそうです。
それも関係してか、日本人の生涯薬物使用率は2.4%で、アメリカの48%と比べても低い値です。
しかし、厳しい刑罰をもってしても再犯率は年々上がり続けています。
この原因の1つに、「薬物依存症当事者や薬物使用者」を「治療する、ケアする」という視点が少なかったことが関係しているかもしれません。
「薬物依存症者を厳しく処罰する」という視点に対する反省を生かし、近年ではVoice Bredge Project等の様々な施策がはじまりました。
少しずつ薬物依存症当事者に対して、「ケアする」という視点が広まり始めているのかもしれません。
2. なぜ依存症と犯罪は関係あるのか?|実例の紹介
ここから、なぜ依存症を抱えた人が罪を犯してしまうのか、疑問にお答えします。
この事例は私が大学の授業の中で聞いた事例です。
個人を特定されないように、いくつかの事例を組み合わせていますが、当事者が「生きづらさ」を抱え、結果、法を犯してしまったという点で共通しています。
【事例】
20代前半の男性(被虐待経験あり)Aさん
違法薬物使用の容疑で逮捕
【背景】
Aさんは幼少期に、精神疾患を持った両親のもとで育てられました。
両親は知的障害も併発していたため、Aさんの子育てや、両親それぞれの精神疾患について定期的に相談する場所を見つけられず、社会的にも繋がれず、両親もAさんも苦しい状況でした。
Aさんは極度のネグレクト状態でした。
3歳の頃、近所の方の連絡でAさんは児童養護施設に入所します。
児童養護施設に入所するものの、大きい施設であったため、Aさんだけをケアする状況になく、Aさんは寂しい思いを抱えていました。
小さいころに愛された経験がないため、自己肯定感が低く、周囲に甘えることが上手にできずにいました。
そのた感情表現等も乏しく、いつも無表情でした。
Aさんは施設入所後から、同じ施設で大きくなりました。
高校生の際、学校の帰り道で逆レイプされました。
その記憶がたびたびフラッシュバックし、事件の後は睡眠障害等を抱えていました。
その時の事件が衝撃的だったそうです。
Aさんはこの時、自分が悪いと思っていました。
Aさん自身は法を犯してしまうまで、言葉にすることができなかったといいます。
睡眠障害を抱え、つらい気持ちで過ごしていましたが、病院等を受診するには、事件について話さなければならないとAさんは感じました。
そのため病院に通うことはなく、1人で苦しんでいました。
ある時、「つらい気持ちが楽になれる薬」があるとネットの掲示板で見つけます。
藁をもすがる思いで、掲示板に書き込みをしてしまいます。
その後、シンナーを使い始めてしまいます。
シンナーを使っている間だけは、衝撃的な事件のことを忘れられたといいます。
そして、自分と同じようにシンナーを使用する仲間の存在は、自分の気持ちを分かってくれるように感じ、Aさんの孤独感を緩和し、気持ちを明るくしてくれました。
その一方で、様子のおかしいAさんを思って、そして施設の他の子どもたちがAさんの様子を心配し始めました。
施設の職員がAさんの部屋を調べたり、学校等での聞き取り等しましたが、それらはむなしく結局原因をつきとめることができませんでした。
結局Aさんが不良仲間とシンナーを使用している場面を警察に見つかり、逮捕されてしまいます。
警察に捕まる頃には、「薬をやめなきゃいけない」と頭の中では思っていました。
しかし、薬物の効果が切れるころには「事件の頃を思い出し恐怖の感情をおさえきれなくなったこと」そして「薬をやめたら、同じ薬をしている仲間と離れてしまうのでは」という不安から、どうすることもできなかったそうです。
現在彼は、少年院で薬物依存症の回復プログラムを受けながら、少しずつ自分の気持ちに折り合いをつけようとしています。
3. まとめ
今回は統計データを交えながら、依存症と犯罪についてご説明いたしました。
これまでの話をまとめます。
- ①依存症と犯罪は関係があり、アルコール依存症であれば飲酒運転など、薬物依存症であれば違法薬物使用など特にに関連があります。
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②依存症を抱え犯罪を犯してしまう人の一定数に、孤独感を抱えていたり、原体験の中でつらい経験等をしているケースがあります。
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③依存症を抱え犯罪を犯した人に対して、「罰する」という視点だけではなく「ケアする」という視点も重要です。
依存症と犯罪は関連があり、その背景には当事者の「生きづらさ」や「苦しみ」が隠れている場合があります。
彼らにとって必要なのは「厳罰」ではなく「ケア」です。
彼らの気持ちに寄り添いながら「生きづらさ」を緩和し、再び依存症に戻らないようサポートする必要があります。
私たちヒューマンアルバでは、依存症治療はもちろん、その人の抱える「生きづらさ」や「苦しみ」に寄り添い、回復のサポートをします。
些細なことでも構いません。
お困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。
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ヒューマンアルバでは、定期的に『家族会』を開催しております。
依存症者を回復につなげるためには、まずご家族が対応を変えていく必要があります。
・つらい思いを吐き出す場として
・状況を変えていく学びの場として
ぜひ、ご活用ください。 (お申し込みはこちらから)
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参考:
・松下幸生(2011)飲酒運転を起こすドライバーの特徴について 特集 「飲酒運転対策プロジェクト」
・西谷陽子(2015)飲酒の人体への影響と交通事故 特集 交通事故と法医学/紹介 国立安全学会誌 Vol40.No1
・2016 九弁連大会シンポジウム報告書 ギャンブル依存症の被害実態
・松本俊彦『薬物依存症』(2018) 筑摩書房
・アルコール依存症者のリカバリーを支援するソーシャルワーク実践ガイド(2014)アルコールソーシャルワーク理論生成研究会|厚生労働省
ライター名: 木原彩