2024/06/12

「なぜウソつくの?」|ギャンブル依存症者の気持ちと対応策

ピノキオ

「もうギャンブルしないって言ってたのに...。どうしてウソつくの?」

「家族の財布からお金が無くなっていて…。でも本人に問い詰めると『自分は知らない』と言い張っていて…」

「本人は『オレは借金してない』っていうんです。でもホントは友達やサラ金からお金を借りていて...」

ギャンブル依存症の当事者を抱えるご家族からはこのような言葉を聞かれることが頻繁にあります。

ギャンブルに限らず依存症のご家族をお持ちのみなさんは、このような依存症者本人のウソに振り回されてしまうことが多いかと思います。

今回はギャンブル依存症のウソについて考えてみたいと思います。

目次

1. ギャンブル依存症について

まず、ギャンブル依存症とはどういう病気なのでしょうか?

ギャンブル依存症は精神疾患の1つであり、「金銭的な問題や社会的な問題を抱えてもギャンブルをやめられずに続けてしまう状態」のことを指します。

具体的にはギャンブルのために借金をする、ギャンブルを続けるために会社を休む、学校を欠席する、会社のお金を横領してまでギャンブルにのめり込む、といった問題行動を起こし会社をクビになってしまったり、不登校になるなど社会生活が困難になる状態をいいます。

そのため、当事者本人だけでなく家からお金がなくなったり、家族が借金の保証人になり肩代わりをしたりと周囲にも大きな影響を与える障害といえます。

1度ギャンブル依存症になってしまうと、自分の意志でギャンブルを抑えることが困難になるため、ギャンブルをしない状況を継続的に作っていかなければならない病気になります。

しかし、アルコール依存症など他の依存症と同様に「完治はないが回復はある」という病気です。

ギャンブル依存症は1970年代にWHO(世界保健機関)が「病的賭博」と定義して、正式に病気であることが認められました。

また、その後の研究により、ギャンブルが止められなくなるメカニズムがアルコールや薬物に依存してしまう点との共通点が多いことがわかってきました。

このため、現在ではアルコール依存症などと同じ疾病分類(物質使用障害および行動嗜癖)に「ギャンブル障害」として位置づけられ、ギャンブル依存症が病気のひとつとして認められるようになっています。

ギャンブル依存症の回復プログラムとして、ギャンブル依存症者本人の自助グループであるGA(ギャンブラーズ・アノニマス)やギャンブル依存症家族のための自助グループGam-Anon(ギャマノン)といった団体があります。自助グループで同じ経験をした人たちと経験や感情の分かち合いを行うことで、今までの経験を正直に話せる場ができ、自助グループで自分の行動や人生を振り返ることで、徐々に回復への道のりが見えてきます。

また、地域の保健所や依存症専門病院などの治療機関で行っているプログラムも効果がありますし、アルバのような「中間施設」といった依存症回復を手助けしてくれる施設に通うことも効果的です。

ギャンブル依存症の当事者にとって「正直な話を安心してできる場所」があることが非常に重要になります。

2.ギャンブル依存症の人はなぜウソをつくの?

まず始めにウソをつくのは「ギャンブル依存症だけの特徴ではない」ということです。

アルコール依存症などの他の依存症でも、ウソをつくことは頻繁にあります。「ウソをつく」というのは、依存症者に共通した行動パターンであると言えます。

アルコール依存症の場合を例に挙げてみましょう。

依存症の治療をしようと精神科を訪れたアルコール依存症の患者がいたとします。

診察の際に医師から『普段どのぐらいお酒を飲まれていますか?』といった質問をされると、アルコール依存症の患者は普段ビールのロング缶を1日5缶飲んでいたとしても『う〜ん、小さいビールの缶を1日2〜3缶ぐらいですかね』といった感じで本当のことを言おうとしません。ほぼ必ず飲んでいる量を過小に申告します。

依存症の特徴として、現在起きている事実を正直に言わないということはよく見られる行動パターンです。

過少に申告することで『自分の病気は大したことはない』『本当のことを言うと相手からどう思われるかわからない』といった心理が働くためです。

これがギャンブル依存の人であれば、ギャンブルをしていたことを隠す、賭けた金額を少なく話す、借金の額を少なく話す、といったウソになります。

ギャンブル依存症の当事者は「やってはいけない」「やめなきゃ」と思いながらも、やめることができず結果的にウソをついてしまうことがあります。

また、何をしていても「ギャンブルをしたい」気持ちが抑えられなくなり、ギャンブルのためにウソをついてしまうケースもあります。

ギャンブル依存に限らず、あらゆる依存症者には「やめたいと思っているのにやめられない」「(周囲や自分に対して)やめると誓ったのにやめられない」といった『罪悪感』や『やめられない自分が恥ずかしい』という感覚が付きまとっています。

自分でも「(ダメだと)わかっちゃいるけどやめられない」のが依存症という病気なのです。

次にギャンブル依存症に特徴的な、いろいろなウソのパターンを見ていきましょう。

①その場しのぎのウソ

「ギャンブルはしていない!!」

「家のお金は取っていない、自分の給料だけでやりくりしてるんだ」

「借金なんてするわけないじゃないか...」

上記のようなことを訴えていても、本当はギャンブルをしていたり借金をしているケースは非常に多く見受けられます。

こうしたウソをつく理由として、家族など周囲の人たちにギャンブルがやめられないことを正直に伝えると「(意志が弱いと)叱られたり」「非難されたり」「見放されたり」といった恐れを抱いていることが多いからです。

②正当化のためのウソ

「上司に叱られて、イライラしたから『憂さ晴らし』のためにギャンブルをしたんだ」ともっともらしいことを言っていても、本当は自分が「ギャンブルをやりたい」という欲求を抑えられなかっただけ、というケースもあるでしょう。

このような口実をみつけて、ギャンブルをする自分の行動を「正当化」しようとします。

周囲に「ギャンブルをやめないなんて甘えている」などと非難されないようにするため、言い逃れのためのウソをつく場合もあるでしょう。

③約束を守れなかったが故のウソ

「もう借金なんてしない。」

「借りたお金なら〇月〇日までには返すから」

「2度とギャンブルはしない」

このように周囲の人たちに約束をしますが、たいていの場合は裏切られます。

ギャンブル依存症当事者は、何かのきっかけで禁断症状が生じギャンブルをしてしまう可能性があります。

「ギャンブルをやりたい」という衝動が抑えられず、ついギャンブルに手を出してしまうのです。

3.ギャンブル依存症当事者に対して周囲ができる4つのこと

ウソをつくギャンブル依存症者に対して、周囲の人たちができることはなんでしょうか?

①ギャンブル依存症者のウソは病気のせいだと理解する

前述した通り、ギャンブル依存症は精神疾患の1つです。

つまり、ウソをつくこともある種の「病気の症状」と捉えることができます。

そのため、本人の性格や甘えというより「ギャンブルを脅迫的にやりたいと思ってしまう病気」のために衝動的にウソをついてしまうことがあります。

本人のやっている行為やウソをつき続けることに周囲が傷ついたり、攻撃するのではなく「これは病気の症状が出ているのだ」と割り切ることも必要かもしれません。

②ウソを過度に責めない

ギャンブル依存症当事者は、治療をはじめる前も、あるいは治療中も、ウソをついてしまう場面があるかもしれません。

「ギャンブルは今日で最後にするから」

「今まで負けてた分を取り返したらやめるから」

そんなことを言ってもギャンブルをやめられないかもしれません。

しかし、それを過度に責めたり説教をすると、ギャンブル依存症当事者のストレスがたまり、それが引き金でギャンブルを再開してしまう可能性があります。

過度に責めるのではなく、ウソをつかれた周囲の人は「私はあなたにウソをつかれたことが悲しいです」と自分の気持ちを伝えてみてください。

③ウソが出ない会話を心掛ける

様々な理由から、ギャンブル依存症当事者に「今日はどこに行ってたの?」と聞いてしまう場合があるかもしれません。

しかし、それはギャンブル依存症当事者を追い詰めてしまうことがあります。

本当はパチンコに行っていたのに、「今日は同僚と飲みに行っていたんだ」などとうそをつかせるきっかけを与えてしまうかもしれません。

ギャンブル依存症当事者も、質問したその人を悲しませたくない、失望させたくない思いでウソをつく可能性もあります。

そして、ウソをつく方もつかれる方も、双方が傷つく可能性があります。

ギャンブル依存症当事者がウソをつきそうな内容の質問はせずに関わってみてください。

その関わりの中で、ギャンブル依存症当事者が少しずつ変わっていく場合があります。

④ギャンブル依存症者の家族であるあなたもウソをつかない

「ギャンブルをやめないなら、離婚するから。」

「パチンコをやり続けるなら、私はストレスで死んでしまいます。」

ギャンブル依存症当事者のそばにいるあなたは、思わずこのような言葉を言ってしまうかもしれません。

しかしその後、あなたはどうしましたか?

ギャンブルをやめないパートナーと離婚したでしょうか?家族がパチンコをやり続けてストレスで死んでしまったのでしょうか?

ギャンブル依存症当事者に自分の気持ちを伝えたいのはよく分かりますが、これらの言葉を言ったとしても状況が良くなる見込みは高くありません。

なぜなら、ギャンブル依存症は本人の意思でコントロールできない「病気」だからです。

あなたが「離婚」を口にしても、実行しないと分かると、かえって彼らのギャンブル行為をエスカレートさせてしまう可能性も考えられます。

どんなに当事者の行動が許せなくても、実行できない約束をしないでください。

とはいえ、ギャンブル依存症の家族のあなたは、ストレスを過度にためているかもしれません。

そうした時は、同じ気持ちを共有できる自助グループや施設の『家族会』に参加してみるのも1つの手です。

つらい時は一人で抱え込まず、第三者を頼ってください。

4.まとめ

いかがだったでしょうか。

今回は、「ギャンブル依存症当事者の気持ち」と「彼らがついてしまうウソへの対応方法」についてお伝えしていきました。

これまでの内容をまとめていきます。

・ギャンブル依存症とは、金銭的な問題や社会的な問題を抱えてもギャンブルをやめられずに続けてしまう状態で精神疾患の1つ。

・ギャンブル依存症になると様々な理由でウソをつくことが常態化する

・ギャンブル依存症当事者がウソをついたとき、ウソをついたことを責めずに依存症当事者と関わってみる

私たちヒューマンアルバでは、依存症の回復プログラムを提供しています。

依存症当事者の苦しみはもちろん、ご家族が経験してきた体験も共有し、一緒に回復していきたいと思っています。

ご相談等あれば、ぜひご連絡ください。相談料は無料です。

お電話はもちろん、メールでのお問い合わせもお待ちしております。

自分たちだけで悩まず、ぜひ一緒にその問題を考えさせて下さい。

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ヒューマンアルバでは、定期的に『家族会を開催しております。

依存症者を回復につなげるためには、まずご家族が対応を変えていく必要があります。

・つらい思いを吐き出す場として

・状況を変えていく学びの場として

ぜひ、ご活用ください。 (お申し込みはこちらから)

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参考:

・西川京子 (2013) 『知っていますか? ギャンブル依存 1問1答』解放出版社

・大谷信盛 (2015)ギャンブル依存者のタイプ分類と公共政策 ─グループ属性から効果的な依存問題対策を導く試み─ 大阪商業大学アミューズメント産業研究所紀要 第17号

・高橋英彦・鶴身孝介・藤本淳(2017) ギャンブル依存症の神経メカニズム  Translational Psychiatry

・依存症対策全国センター「依存症ってどんな病気?」