薬物依存者と支援者を繋ぐVoice Bridge Project
皆さんはVoice Bridge Project(声のかけ橋プロジェクト)という言葉を聞いたことがありますか?
2016年6月に『刑の一部執行猶予制度』が施行されたことを契機に、薬物事犯者の人たちが出所後に再び薬物を使用しないよう、彼らと支援者を繋ぐ仕組みがより一層求められるようになりました。
Voice Bridge Projectはそうした背景で始まった『保護観察所と地域の支援機関を繋ぐプロジェクト』です。
この記事では、Voice Bridge Project、そして薬物依存症者に向けたその取り組みについてお話していきたいと思います。
目次
1. 薬物依存症の方が抱える困難
Voice Bridge Projectの説明の前にまず、薬物依存症について説明していきます。
というのも、このプロジェクトは保護観察対象となった薬物事犯者の長期的な治療経過、及び結果を調査するために始まったものだからです。
薬物依存症とは、薬物に対する精神的もしくは身体的な依存が基盤となって現れる身体的、行動的、精神的な症状の総称を言います。
簡単に説明すると、大麻や麻薬、シンナーなどの薬物を繰り返し使いたい、または使っていないと不快になるために使い続ける、やめようと思ってもやめられない状態を指します。
薬物依存症者の数は、厚生労働科学研究(=厚生労働省)の「こころの健康についての疫学調査に関する研究」において、約10万人と推定されています。
また薬物依存症かどうかは定かではないものの、2017年の薬物事犯の検挙数は約1万4000人という状況でした。
普段生活を送る中で、中々薬物依存症者の人たちに触れる機会はないと思います。
しかし、こうした実態を見てみると、必ずしも遠い世界の話ではないことが分かります。
薬物依存症は、誰でもなり得る可能性があると言われています。
「ストレス」や「孤立感」を感じている時に知り合いから誘われ、それが原因となり薬物依存症になるケースも多数報告されています。
また、「仕事」「受験」「就活」などで常にプレッシャーにさらされている場合、「もうひと頑張りしなきゃ」という動機から薬物を使用してしまうケースも存在します。
日本国内において、日常生活の中のふとしたことがきっかけで薬物に手を出し、そして逮捕されるという実態が実際にあるのです。
2. Voice Bridge Projectとは?
Voice Bridge Projectは、
「精神保健福祉センターをはじめとした地域の支援機関と連携し、保護観察状態の薬物依存症者にアクセスするプロジェクト」のことを指します。
具体的には、薬物関連に関する保護観察対象者に定期的に電話で連絡を取り続けることで、彼らの状態に応じて、医療機関や自助グループを紹介するなどします。
あるいは精神保健福祉センターで行われているプログラムに誘ったり、当事者達が孤立化しないようサポートしていくというプロジェクトです。
もともとこのプロジェクトが始まったのは、ある自殺対策がきっかけだったそうです。
その中では、自殺未遂の段階で当事者たちにアプローチをしていた方が、そうしていない場合より再び自殺を図るケースが少なかったという報告からきています。
冒頭で「刑の一部執行猶予制度が施行されたことが契機だ」とお話ししました。
このように一部執行猶予が付くことで、より一層、薬物を再使用する前に当事者たちと繋がれるようになりました。
約半年ほど前、南青山の児童相談所建設に反対する地元住民のニュースが話題になりました。
薬物依存症者をはじめとしたそうした一連の問題には、いかに社会の中で支援していくかが重要になってきます。
南青山の児童相談所建設に反対の声。各地で続く建設断念に子どもたちへの偏見 (2018.10.30) BUSINESS INSIDER JAPAN
Voice Bridge Projectを主導している松本俊彦先生によると、このプロジェクトを通して精神保健福祉センターと保護観察所の間の良好な連携が築かるようになってきたそうです。
今後もVoice Bridge Projectを継続していくことで薬物依存症の人たちを孤立化から守るのではと期待されています。
3. まとめ
今回の記事では、薬物依存対策の一環として始まったVoice Bridge Projectをご紹介していきました。
改めて内容を整理します。
- ①Voice Bridge Projectとは、薬物依存症の方を孤立化しない仕組みの1つとして現在行われているプログラムのことを指す。
- ②Voice Bridge Projectは、保護観察状態の当事者たちと精神保健福祉センター等を繋ぐ役割がある。
- ③Voice Bridge Projectを通して、より深い精神保健福祉センター等と保護観察所の連携が期待される。
「薬物依存」という問題は以前から様々な取り組みがなされてきていたものの、十分に依存症当事者たちと「社会」を繋ぐことができていませんでした。
今回ご紹介したようなプロジェクトを通して、これまで以上にそうした双方の関係性の強化が期待されます。
日常生活で薬物依存症という問題を深く考えることがにない人もこうした取り組みは学ぶことがあるかと思います。
私たちヒューマンアルバでも、日々のプログラムを通して依存症当事者の方々の社会参加を支援しています。
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今回の記事がお読みの皆さんにとって、何かしらの気づきになれば幸いです。
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参考:
・水野英樹,宮村啓太 『刑の一部執行猶予制度について(前編)』(2016) 第二東京弁護士会
・松本俊彦『保護観察の対象となった薬物依存症者のコホート調査システムの開発とその転帰に関する研究』(2017) 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
・松本俊彦『薬物依存症』(2018)筑摩書房
・Motto JA・Bostrom AG. A randomized controlled trial of postcrisis suicide prevention. (2001) Psychiatr Serv. Jun;52(6):828-33.
ライター名: ブランコ先生