ゲーム依存症者の気持ち・心理に寄り添った3つの援助法
「息子がゲーム依存症になってしまいました。あの子は今どんな気持ちなのですか?」
「旦那がゲームをやめられなくなっています。夫婦で会話することも減りました。」
あなたはこうお悩みかもしれません。
ゲーム依存症について、世界保健機構(WHO)は2018年6月18日、ゲーム障害という名称で精神疾患であると公表しました。
「ゲームをやりすぎてしまう」
「ゲームをやめたいけどやめられない」
こんな気持ちや心理の背景に精神疾患が関連しているかもしれません。
この記事では、「ゲーム依存症当事者の心理や気持ち」「サポート方法」について、当事者家族の経験がある私からお伝えしていきます。
目次
1. ゲーム依存症になる理由|のめり込む気持ち
ゲーム依存症になる唯一の原因・要因は最新の研究データ等でもまだわかっていません。
しかし、実際に弊社にゲーム依存症で相談に来る方などから、ゲーム依存症になりやすい人、のめり込んでしまう気持ちがあると考えています。
以下、私たちの施設に相談に来てくださった人の心理傾向で、特徴的だったものをご紹介します。
①孤独感を抱えている
会社や学校では周囲と合わせコミュニケーションをとり、人に気を遣うこともあり、人に嫌われることを恐れたり、過度に人とのコミュニケーションを怖がる場合もあります。
「あの人は一人ぼっちだ」と思われていない人当たりのよさそうな人でも、こうした孤独感を抱えている場合が思ったよりも多いのです。
また、人付き合いの苦手な人も「誰も自分の気持ちを理解してくれない」と孤独感を抱えている場合があります。
孤独感や「誰もわかってくれない」と心を閉ざしてしまいがち、「ゲームというバーチャルな世界観の中にいる」ことで、「この世界にいれば誰も自分のことを傷つけない」と思い、ゲームにのめり込む場合があります。
ゲームにのめり込むの裏側に「誰も自分を理解してくれない」孤独感や、「誰にも傷つけられなくない場所に逃げたい」とバーチャルなゲームの世界に閉じこもる気持ちがあるのでしょう。
②低い自己肯定感
会社で仕事ができない、上司に怒られてばかりいる。学校で勉強ができない、先生や親に叱られるなど、自分は周囲に「良い」と言ってもらえない。
本当はもっと自分はできるはずだと思いつつも、失敗体験が重なり「自分はどうせ何をやってもダメだ」「自分には価値がない」という気持ちなのかもしれません。
そこで、やっていたゲームで「クリア」するなど、一定の成功体験を積むことで「自分はやればできるのではないか?」という希望を持つのでしょう。
ゲームを通して、達成感や成功体験を得ることで、「ゲームだけはできる」という自信を持ち、のめり込んでいくのかもしれません。
③不安が強い
①と近いですが、不安が強く心配性な人がストレス発散のためにゲームをするのかもしれません。
以前私が関わったゲーム依存症の方は「人が怖い、人の目を見て話せない」とおっしゃっていました。
人との関わり、仕事や勉強等で大きな出来事等がある前後は不安を感じやすいかもしれません。
「不安だ、どうすればいいんだ」と何かにすがりたい気持ちからゲームにのめり込んでいくのかもしれません。
④ストレス環境下にいてストレスを感じやすい、元々感受性が強い
③と近いですがストレス環境下にいて、ストレスを感じ疲れやすい等の特性がある場合があります。
学校や会社での競争社会、また「家庭内で家族が不仲である」など安心感が感じられない環境にいることでゲームにのめり込む可能性があります。
⑤生き甲斐がない、楽しいと思えることが少ない
生きがいがなく、「楽しいと思えることがない、退屈だ」と思い、暇つぶしにゲームをやっていくうちにのめり込んでしまう可能性もあります。
また、やりがいのある仕事を定年退職等で離職すること、学生であれば部活等を引退、ケガでやめざるを得ないなどの挫折などは、「生きがいをなくす」といった生きがいの喪失になります。
喪失体験を通して、むなしい気持ちや寂しい気持ちや悲しみをうめるためにゲームにのめり込んでいくのかもしれません。
ゲーム依存症の方と実際にお話すると、もちろんゲームが好きな方や、上手な方が多い印象です。
しかし過度にのめり込む気持ちの背景にには、上記のような「生きづらさ」を抱えている人もいます。
そのため、単なる依存症治療をしても、ゲーム依存症当事者が抱える生きづらさが緩和されなければ、その人は依存症でなくなったとしても「生きづらさ」を抱え続ける可能性があります。
ここまでは簡単な分類でしたが、「実際にゲーム依存症の人ってどんな気持ちなんだろう?」という一例として私の知っている当事者の話をします。
以前私の弟がゲーム依存症でした。(今は依存症治療を行い、依存症を克服し社会復帰をしています。)
弟がゲーム依存症になったのは、高校生の時です。
私の弟は進学校で勉強についていくことによるストレスや、対人関係等のストレスをため込み不登校になりました。
その中で、学校に行けない罪悪感や苦しさから、ゲームをしながら「苦しい気持ちを一時的に忘れよう」としていました。
本当は、学校に行きたいし、勉強についていけるようになりたいという思いもあり葛藤していました。
しかし、「学校に行けない苦しみ、対人恐怖」は消えることなく、苦しみから逃れるためにどんどんゲームにはまり、結局学校を中退しました。
このように、ゲーム依存症当事者はゲーム依存症にになる前から苦しんでいる可能性があります。
そして、孤独感や低い自己肯定感、ストレスなどからゲームに一時的に逃れた結果ゲーム依存症になった可能性があります。
ゲーム依存症を克服するには単なるゲーム依存症治療だけでなく、その背後にある苦しみへのケアも必要となるでしょう。
2. 周囲の人が当事者にできるサポート
それでは、周囲の方がゲーム依存症の方にできるサポートはなんでしょうか?
当事者へのサポートとして、心理的なケア、その先の進路(進学・就職)などの援助などいくつか考えられるでしょう。
ここではいくつか周囲の人がゲーム依存症当事者にできるサポートについてご紹介します。
①ゲームを否定せず、ゲーム依存症当事者自身を肯定する
ゲーム依存症当事者の生きる環境がストレスフルな場合、心理的サポートも必要でしょう。
まずはゲームを否定せず、当事者自身を肯定し、それを相手に伝えましょう。
というのも、先ほども述べたように、ゲーム依存症当事者は、依存症になるまでにストレスがかかりすぎ「何かに逃げたい、すがりたい」という思いからゲームにのめり込んだ可能性があります。
また、自己肯定感の低さから、「自分なんてダメな奴だ」と思い、その思いを払しょくするためにゲームを始めた可能性もあります。
そのため、まずはゲーム依存症当事者が「何かに逃げたい、つらい」と思っていたかもしれない気持ちを肯定することが大事です。
「つらい」と思う気持ちを肯定することで、ゲーム依存症当事者も少しずつ気持ちが軽くなっていくでしょう。
先ほども述べましたように、私には「依存症の家族」だった経験があります。私の弟がゲーム依存症当事者でした。
彼が以前ゲーム依存症の治療の一環でカウンセリングに通っていましたが「ゲームにのめり込む心理を理解してくれず、そしてゲーム自体を否定された」ことがあったそうです。
カウンセリングの中で、カウンセラーの方は熱心に彼の話を聞いてくれていましたが、「ゲームにのめり込む気持ちやゲームが好きな気持ち」はあまり理解してくれなかったといいます。
そのため、彼はその後その機関でカウンセリングを受けることはありませんでした。
ゲーム依存症当事者を思うあまり、ゲームを否定したくなる気持ちもあるでしょう。
私も当事者だった家族の経験があるため「ゲームばかりやって」と思ってしまう気持ちもわかります。
けれど、当事者を思うからこそ、遠回りに見えるかもしれませんが、ゲーム自体も否定せず、ゲームにすがってしまう気持ちも否定せずにそっと当事者に寄り添ってほしいです。
②安心空間を作り、依存症当事者が少しでもストレスを感じない場所をつくる
ゲーム依存症当事者が「安心していられる環境、ありのままの自分が認められると感じられる環境」を作ることも必要です。
「安心していられる環境、場所」が必要な理由として以前私が大学の心理学の授業で「精神疾患を抱えた人をどうケアすべきか?」について学んだ内容がヒントになります。
その際、臨床心理士でもあるその教授が話していたことは「安心空間を作り、『その人が今日はよかった』と思える環境を整備することが必要だ」と話していました。
この理由として、そもそも精神疾患にかかっている人は、病気になる前から、「孤独感、低い自己肯定感などの苦しい気持ち」を抱え続けている可能性が高いです。
そうでなくても、日々過ごす中でモヤモヤした「なんだか毎日つまらないな...。」という思いを抱え続けていた可能性があります。
ゲーム依存症になる前から抱えていたこれらの気持ちを癒し、当事者と向き合う必要があります。
具体的に彼らにできるサポートして、ゲーム依存症当事者を、ゲーム依存症という精神疾患も丸ごとひっくるめて受容し、それを彼らに実際に伝えたり、態度で彼らに自分の気持ちを届けてください。
「いてくれてうれしい」気持ちを伝えること。
「どんなあなたも大切」という態度を貫くこと。
当事者にとって周囲者のこれらの働きかけにより、「自分はありのままでよいのかもしれない」と気が付くきっかけになるかもしれません。
「自分がありのままで認められ、安心できる環境」が安心空間です。状況が状況で、またどんなタイミングでいえばいいのか迷うかもしれませんが、ありのままに当事者を認める人や場所が必要です
とはいえ、ゲーム依存症当事者を一人で、そして家族だけで受容し続けることは無理があるかもしれませんし、その必要はありません。
「ゲーム依存症の弟」を含め、私たち家族はたくさんの人にサポートしてもらいましたし、そのおかげもあり弟は社会復帰ができました。
「自分ひとりでどうしていいかわからない...。」
「依存症当事者にどう接していいかわからない。」
そんなお悩みをお持ちの場合、どうか適切に第三者にご相談ください。
③将来のポジティブな面を伝えながら、これからどう生きていくか一緒に考える
ゲーム依存症である当事者をありのままに受容し、安心空間を作ることで、当事者は少しずつですが元気を取り戻すでしょう。
実際に目で見てわかるものではないかもしれませんが、「自分は受容されている」と信じられることで、ゲーム以外のことを考える余力が生まれるかもしれません。
余力が生まれることで、将来の次の1歩を考えられるかもしれません。
依存症になる人は、今までの「生きづらさ」や「苦しい気持ち」、「言葉にできないむなしさや満たされない気持ち」を持っている場合がほとんどです。
彼らはその苦しみと向き合う中で、1次的に何かにすがりたくて、依存してしまったのかもしれません。
そのため、依存症当事者も心の奥底では「依存症のままの自分でいいのかな?」と心の中で葛藤している可能性があります。
しかし、「自分はありのままで認め、信じてくれる誰かや、信じられる何かがある」と信じられなければ、依存行動をやめることはできないのでしょう。
なぜなら、「つらい気持ちや苦しい気持ち」から逃げるために依存を続けている場合は、根本的な苦しい気持ちがなくならなければ、依存をやめたところで当事者は苦しいままだからです。
依存する何かではなく、「自分を信じてくれる誰かや何か」があることで、依存するものに逃げずに自分の気持ちと少しずつ向き合い折り合いをつけられるのかもしれません。
折り合いをつける中で、「将来はこうなりたい」、将来という「大それた未来」でなくても、「明日こうなりたい」と未来に希望を持てるようになるかもしれません。
その中で、依存症当事者に寄り添いつつ、彼らの気持ちを尊重しながら次の一歩のために何が必要か考えるとよいでしょう。
未来を一緒に考える過程を通して、依存症を克服できるかもしれません。
依存するものがなくても生きていける、そして依存する前に抱えていた苦しい気持ちが少しでも緩和され「生きやすく」なるでしょう。
3. まとめ:一人で抱え込まないで下さい。
これまでの話をまとめます
- ①ゲーム依存症当事者が抱える心理・気持ちとして『孤独感・低い自己肯定感・不安感・ストレスを感じやすい・空虚感』などがあげられます。
- ②ゲーム依存症当事者へのサポートとして、『ゲーム依存症当事者をありのままに受容し、本人の気持ちを尊重すること』が大切です。
当事者の気持ちがわからない、どのようなサポートをしたら良いのか分からない、というようなこともあるかと思います。
そうした場合、どうか一人で抱え込まず第三者を頼ってください。
具体的には、保健所、精神保健センター、依存症専門病院等が挙げられます。
私たち、ヒューマンアルバでも依存症回復に向けた無料相談を行っています。
当事者やその家族として依存症を経験したスタッフが、一人ひとりに寄り添い対応しています。
どんな小さなお悩みでも構いません。
あなたの意見を尊重し、ともに回復に向けて歩んでいきます。
ぜひ一度ご相談ください。
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社名: 株式会社ヒューマンアルバ
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ヒューマンアルバでは、定期的に『家族会』を開催しております。
依存症者を回復につなげるためには、まずご家族が対応を変えていく必要があります。
・つらい思いを吐き出す場として
・状況を変えていく学びの場として
ぜひ、ご活用ください。 (お申し込みはこちらから)
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参考:
・友納(鄭)艶花 若者のインターネット依存傾向形成要因と特徴に関する心理学的研究-グラウンデッド・セオリー法を用いて-(2013) 九州共立大学総合研究所紀要
・樋口進『スマホゲーム依存症』(2018)内外出版社
・Müller, K. W., Janikian, M., Dreier, M., Wölfling, K., Beutel, M. E., Tzavara, C., Richardson, C.,& Tsitsika, A. (2015). Regular gaming behavior and Internet gaming disorder in European adolescents: Results from a cross-national representative survey of prevalence, predictors, and psychopathological correlates. European Child & Adolescent Psychiatry, 24, 565–574
ライター名: 木原彩