アルコール依存症を助長する「イネイブリング」
皆さんは「イネイブリング」という言葉を聞いたことはありますか?
イネイブリングとは「良かれと思って本人を助けようとする行動が、結果的に相手の問題・症状を助長してしまう行動」を指す言葉です。
依存症の文脈で使用する場合、「本来依存症当事者が取るべき責任を周囲の人が代わりにしてしまう状態」のことを言います。
イネイブリングをしている人(イネイブラー)の中には「このままでは不安だが、どうしていいか分からず、責任を自分で背負い込んでしまっている」場合が大半です。
この記事では、「イネイブリングとは何か」そして「イネイブリングから抜け出すにはどうすればいいのか」お話していきたいと思います。
目次
1. イネイブリングとは
イネイブリングとは「良かれと思って本人を助けようとする行動が、結果的に相手の問題・症状を助長してしまう行動」のことを指します。
そして、イネイブラーとは「アルコール依存症等の依存症当事者が依存し続ける状態を助ける優しい支え手」のことを指します。
分かりやすい例を挙げます。
アルコール依存症者の近くでイネイブリングをしてしまうイネイブラーの場合、お酒をのんで酔って吐いたものを処理したり、壊したものの弁償をしたり、借金の肩代わりをしたりします。
「イネイブラーの家族」にとっては、本人のためを思ってやっていることですが、当の本人は何の苦労もせず、事態が収まってしまっている、という状態になっています。
無責任な行動をとっても痛い思いをせず家族がなんとかしてくれるのであれば、現状を変える努力を本人はするようになりません。
2. あなたはイネイブラー?
ここからは弊社にご相談にきたいくつかの事例から、実際のイネイブリング行動をご紹介します。
「自分はイネイブラーかもしれない」と思われる方は、ぜひチェックしてみてください。
①お酒を捨てる、隠す
アルコール依存症当事者は病気によって飲酒欲求を抑えられなくなっています。
家族がお酒を捨てたり、隠したりすればするほどもっと上手にお酒を手に入れようと躍起になる可能性があります。
②酔っている当事者を非難したり説教したりする
余計に関係性がこじれる行為です。
ケンカの結果「お前のせいで気分が悪い、だから酒を飲む!」という口実を与えてしまいかねません。
③依存症当事者の飲酒の口実を受け入れる
「夫は仕事がきついから...。」
「息子は嫌なことがあったから...。」
「彼女は不幸な育ち方をしたから...。」
依存症当事者はアルコール依存症という病気のせいで、お酒を飲むための口実を探すのに必死です。
家族がその口実に耳を傾け続けている限り、当事者は飲み続けます。
④飲酒のために嫌な思いをしても黙って我慢する
イネイブラーは「アルコール依存症当事者が家族のつらい気持ちを分かってくれるはずだ」と思うかもしれません。
そのため、イネイブラーの家族は、アルコール依存症当事者が飲酒することや、ウソをつくことに対して「自分が我慢すれば...」と思ってしまいます。
自分の気持ちを伝えられずに我慢してしまうケースがあります。
しかし当事者たちは、都合の悪いことは見て見ぬふりをする場合があります。
ブラックアウトのため、飲酒によって引き起こした不都合は覚えていないかもしれません。
⑤実行できない脅しを繰り返す
「こんなことが続くなら、離婚するから。」
「今度飲んだら実家に帰らせていただきます。」
これらが単なる脅しだと分かると「どうせ脅しに過ぎないしまだ飲んでいたって大丈夫」と当事者は考えるでしょう。
脅しのコミュニケーションを行い続けることで、心を閉ざしてしまう場合もあります。
自分がイネイブラーだと思っていなくても、知らず知らずのうちに上記のような行動をしているかもしれません。
チェックする際には、客観的に判断できる人に手を借りることも大切です。
3. イネイブリングから抜け出すには
イネイブリングから抜け出すためには、「自分がしている(あるいは将来しそうな)ことがイネイブリングかどうか」知ることが大切です。
ここでは、イネイブリングの種類とそれに変わる対策を記載します。
叱る・説教する
酔っ払って帰ってきたアルコール依存症の夫(妻)に向かって、あれこれ説教をしたくなるものです。
ただ、本人は「うるさいな」としか思っていません。
相手に不満をぶつける手段としては有効です。
しかし、事態を変えるための手段としては、以下の対応の方が良いかもしれません。
[代わりの対応]
・その場では何も話さない
酔っていたり、クスリを使っている相手に話しても、大抵は無駄になります。本人がシラフのときに、落ち着いて話すのがよいでしょう。
・夜遅くまで帰りを待たない
いきなり知らんぷりではなく、事前に「遅いときは先に寝ていますね。鍵は渡しておくから、自分で鍵を開けてね」と伝えておきましょう。
・「なんでお前は○○なんだ!」と言わない
相手が約束を守らない時、ついつい「お前は」という責めた言い方になってしまいます。しかしそこは「事態を変える」ことを優先し、「昨日はすごく心配したよ」「約束守ってくれなくて辛かった」等、自分の気持ちや状況を伝える言い方に変えましょう。
世話焼き・肩代わりする
家族が、酔いつぶれた人の服を脱がせ、着替えさせ、布団まで運んであげるところまでしてしまうケースがあります。
暴れて壊したものの後始末も家族がする場合があります。
本人に代わって会社に休みの電話をしてあげるなど、本人の世話を家族がすることで、当事者は「まだ大丈夫だ」と安心してしまうのです。
[代わりの対応]
「今日から一切何もしない」というのも、家族からするとつらい決断かもしれません。
自分達が関わらなくなった場合、『当事者はどのような行動をするのか』考えてみましょう。
事前に考えてみる際には、以下の2点を参考にしてみてください。
①「どんな状況が起きやすいか(想定できるか)」
②「その場合、どんな対処をするか」
例えば、以下の想定が挙げられます。
・家の中で寝てしまったら、そのままにしておく
「風邪をひく」ぐらいなら問題ありません。
・外で寝てる時は、玄関には入れて毛布を掛ける
翌朝、「外で寝ていたので、ここまでは運びました。心配だから毛布だけはかけておきました」と言う。
・本人の酔いがさめるまで、壊したものは維持する
起きてから、「こんなことがありましたよ」「すごく悲しかった」と言って、「これはどうしましょうか」と本人に聞いてみる。あくまで、自分の起こした問題は自分で処理をさせる。
※「家には小さな子供がいる」など、床にガラスが飛び散って危険がある場合は、回避するための最低限の対応(ガラスの片付け等)はしておく。
・依存症が原因の借金は、肩代わりしない
業者からの督促があっても、決して家族側で対処しないようにする。
・会社を遅刻・休む場合、代わりの電話はしない
「これ以上言い訳するのは辛いので、ご自分でお願いします」と伝えてみる。
以上のように、依存症当事者には「心配のサイン」は送りながらも、責任は本人に取ってもらうように働きかけることが大切です。
4. まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「イネイブリング」や「イネイブリングからの抜け出し方」についてお話しました。
最後に改めて、内容を振り返りましょう。
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①イネイブリングとは「良かれと思って本人を助けようとする行動が、結果的に相手の問題・症状を助長してしまう行動」のことを言います。
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②イネイブラーとは「アルコール依存症等の依存症当事者が依存し続ける状態を助ける優しい支え手」のことを言います。
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③依存症当事者の責任は肩代わりせず本人に責任を取らせることが大事です。
私たちは、依存症当事者だけでなく、そのご家族や周囲の人の力になりたいと思っています。
些細なことでも構いません。
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参考:
・猪野亜朗 (2008)『アルコール依存症家族読本-「断酒の動機づけ」から「家族の再構築」まで』 アスクヒューマンケア
・小杉好弘 (2011)『アルコール依存症がよくわかる本-正しい理解と回復のための68ケース』 中央法規出版
・藤田ミナ,岡本祐子 (2009) 成人期における母娘関係とアイデンティティとの関連広島大学大学院心理臨床教育センター紀要 第8巻
ライター名: 木原彩